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神戸地方裁判所 昭和32年(わ)697号 判決 1958年5月23日

被告人 古屋敏夫 外二名

主文

被告人古屋敏夫を懲役八月に、被告人田端孝一を懲役六月に、被告人羅を罰金参万円に処する

被告人羅において右罰金を完納することができないときは金五百円を壱日に換算した期間同被告人を労役場に留置する

押収してある外国製男子用腕巻時計モリス六拾個(内壱個はバンド付、証第一号)は被告人古屋敏夫から、同四拾個(証第五号)は被告人羅からそれぞれこれを没収する

被告人田端孝一から金参拾壱万九千五百円を追徴する

訴訟費用中証人杉谷正秋に支給した分は被告人田端孝一の負担とする

理由

(罪となるべき事実)

被告人等はいずれも所轄税関に申告することなく、不正の行為により関税を免れて密輸入された時計であることの情を知りながら、

第一、被告人古屋敏夫は昭和三十二年六月二十八日神戸市生田区北長狭通三丁目九番地の七羅方において、同人のあつせんにより劉福西からスイス製男子用腕巻時計モリス六十個(課税価格金十五万円、関税金四万五千円)を代金二十五万八千円で買受け、以て有償取得し

第二、被告人田端孝一は内妻宮井千代子と共謀の上、前同日同市生田区加納町三丁目一番地石川宇三郎方において、劉福西から前同様腕巻時計六十個(課税価格金十五万円、関税金四万五千円)を代金二十六万一千円で買受け、以て有償取得し

第三、被告人羅は

(一)  同月二十七日英国船タイピン号船員陳某から前同様腕巻時計二百個(課税価格金五十万円、関税金十五万円)の売却あつせん方依頼を受け、同日劉福西に連絡し、同人を同市生田区下山手通三丁目銀嶺ホテルまで案内し、同所において、右陳及び劉福西間の前記時計二百個の売買につき通訳してやり、以てこれをあつせんし

(二)  同月二十七日右劉から前記時計の売却あつせん方依頼を受けて大阪市在住の古屋敏夫に電話連絡し、これが買受方求め、翌二十八日同被告人肩書住居において、右劉及び古屋間の前記時計六十個の売買につき通訳してやり、以てこれをあつせんしたものである。

(証拠の標目)(略)

(累犯となる前科)(略)

(弁護人の主張に対する判断)(略)

(法令の適用)

被告人古屋敏夫の判示第一の所為、被告人田端孝一の判示第二の所為、被告人羅の判示第三の(一)、(二)の所為はいずれも関税法第百十二条第一項(被告人田端の右所為については更に刑法第六十条適用)に該当するので、被告人古屋、同田端に対しては所定刑中懲役刑を、被告人羅に対しては所定刑中罰金刑をそれぞれ選択し、被告人古屋を懲役八月に処し、被告人田端に対しては前示前科があるので、刑法第五十六条、第五十七条に則り累犯の加重をし、その刑期範囲内で同被告人を懲役六月に処し、被告人羅の判示所為は刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十八条第二項に従い、合算した罰金額の範囲内で同被告人を罰金参万円に処し、被告人羅において右罰金を完納することができないときは刑法第十八条により金五百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、押収してあるスイス製男子用腕巻時計六十個(証第一号)は被告人古屋が判示第一の犯行により有償取得したものであり、同四十個(証第五号)は被告人羅が判示第三の(一)の犯行によりあつせんしたものの一部であるからいずれも関税法第百十八条第一項に従い、右時計六十個(証第一号)は被告人古屋敏夫から、同四十個(証第五号)は被告人羅からそれぞれこれを没収すべく、被告人田端の判示第二の犯行にかかるスイス製男子用腕巻時計六十個は、没収することができないから前同条第二項に従い、同被告人から金三十一万九千五百円を追徴し、証人杉谷正秋に支給した訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して、被告人田端にこれを負担させることとし、主文のとおり判決する。

(追徴金の算出基準)

関税法第百十八条第二項に定める「犯罪が行われた時の価格」とは犯行時の国内卸売価格であると解するを以て相当とすべく、公定価格のあるものはそれに従うべきであるが、公定価格のないものについて特に本件における如く外国製腕巻時計の国内卸売価格を如何に認定するかは困難な問題であるけれども、当裁判所は次のとおり定めるのが妥当であると解する。すなわち、金側又は白金側以外の外国製腕時計の場合はその輸入原価(課税価格)に関税定率法第三条(別表番号一六〇一)に定めるその三割の関税を加え、得た金額に物品税法第一条第五十号、第二条に定める物品税としてその百分の十を加算する。次に、特定物資輸入臨時措置法(昭和三十一年法律第百二十七号、昭和三十一年六月五日から三年を経過した日に効力を失う限時法である)第二条に定める国庫に納付すべき特別輸入利益として輸入価額に適正利潤及び諸掛の額を加えた額と国内販売価額との差額の見積額を加算すべきであり、然して右特別輸入利益額は通商産業省「外貨資金割当基準第一三号、三二通局第三六六号、無公表品目機械類中腕時計(ムーブメント及びパーツセットを含む)の外貨資金割当基準について(その二)」により少くとも輸入原価の三十五パーセントであると観なければならない。

更に、輸入者の得べき通常の利益として輸入諸費の最低二十パーセントを認めるべきことは公知のことに属し、この金額を加算すべきである。

よつて、以上を輸入原価を一〇〇として数式に現わせば

〔100(輸入原価)+30(関税)+13(物品税)+35(特別輸入利益金)〕×20/100=35.6

となり、輸入業者の国内卸売価格は、輸入原価に対し関税三十パーセント、物品税十三パーセント、特別輸入利益として国庫への納付金三十五パーセント、輸入業者の得べき利益三十五パーセント(前記数式のとおり三十五パーセント六となるも三十五パーセントとする)を加算し、輸入原価の二百十三パーセントとなり、これを以て最低のものというべきである。

今本件についてこれを適用すれば、被告人田端孝一の判示第二の犯行にかかるスイス製男子用腕巻時計六十個は、既に同被告人が処分し、没収することができないところ、右時計六十個の輸入原価は大蔵技官谷信雄作成の犯則物件鑑定書(鑑第三六四号)記載のとおり金十五万円であるからこれに対する二百十三パーセント相当の金額、すなわち金三十一万九千五百円を以て右時計六十個の国内卸売価格とすべきであり、同金額を右被告人から追徴することとした次第である。

(裁判官 福池寿三)

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